工場に勤める夫曰く、工場では従業員同士がすれ違う際に「ご安全に」と互いに声を掛け合う文化があり、この風習は昔ドイツの炭坑で坑夫同士がそう声を掛け合っていたことが由来らしい。
他にも登山客は誰かとすれ違う際、例え相手が知らない人であっても挨拶をするのが登山マナーという話を登山好きの父から聞いたことがある。
工場・炭坑での挨拶文化も登山でのマナーも、もちろん互いの無事を祈り合うことが本来の目的なのだろうが、過酷で危険な現場で万が一のことがあった際に役立てるための互いの目撃情報収集の役割も担っているのではないだろうか。
だからかけられた挨拶を無視するという行為は愛想が悪いというよりも、
「自分に万が一のことがあった場合は助けてもらえるかもしれないが、相手に万が一のことがあった場合に自分は何の役にも立たない」
ということに繋がりかねない。
なんだかんだでこの世は四苦八苦に満ちたものなのだから、工場や炭坑、山中でなくとも人は互いに互いの苦労を慰め合うために同じ境遇にいると感じる人を見ると挨拶を交わしたくなるのは自然な感情で、そうした「自然な感情」の背後には合理的な目的が隠れているものでもある。




