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忘れていたわけではない

春に旬を迎えるホタルイカ。

しかし娘はもちろんのこと夫もホタルイカは苦手らしい。

家族内で好き嫌いが分かれるとなると食べられるタイミングも限られてくる。

「今日明日は帰りが遅くなるから夕飯はいらない」

その日、毎年春は仕事が忙しくなる夫に例年通りそう告げられた私は、今がチャンスとばかりにスーパーのカゴにホタルイカを投入した。

酢味噌をあえて食べるのも好きだが、今回は二日連続で夫がいないのだ。

これまた到来したチャンスを逃すまいと先日インスタで見つけて以来気になっていたホタルイカの炊き込みご飯を作ってみることにした。

しかし私は決して忘れていたわけではなかった。

その日が私たちにとって付き合い始めた記念日であることを。

夕飯を一緒にできないことは仕方がないにしても、その日であることは忘れないでほしい……。

あくまでも覚えていてくれたらそれでいいというつもりで夫にLINEで、

「今日は何の日?」

と送る。

そして送ったあとはいそいそと台所に立ち、ホタルイカの炊き込みご飯を作り始めた。

今回は炊飯器ではなく土鍋を使うというこだわりよう。

そうして夕飯の準備を終え、あとは娘のお風呂や寝る準備という頃、先の私の問いかけに対する夫からの返事が届いた。

「だったら今日は夕飯家で食べる」

私は決して今日が何の日かを忘れていたわけではない。

一緒に過ごしたいという気持ちがなかったわけでも決してない。

一緒に過ごせるのであれば一緒に過ごしたかったのだ。

慌てて炊飯器で夫の白米の準備をし、私は帰宅した夫を迎えた。